人が死後に赴く冥土〈めいど〉には、亡者の罪業の審判者として閻羅王〈えんらおう〉(閻魔王)など十人の王がおり、初七日から七七日までの七日ごと、および百日・一年・三年の各忌日に、順次各王の許で裁かれて行き、六道のどこへ生まれ変わるかを決められるという。中国では五代(10世紀)頃から遺品があり、宋・元時代の明州(現在の浙江省寧波市)の職業的画工の作品がわが国へも多くもたらされた。それを代表するのが陸信忠〈りくしんちゅう〉筆本である。本品の落款には一部欠損があるものの、当館の陸信忠筆「仏涅槃図」と筆跡が一致すると認められる。十図はいずれも王が冥官たちを伴い、椅子に掛けて机に向かい罪状を調べており、前には裁きを受ける亡者や、あるいはすでに有罪とされた亡者が様々の刑罰を受ける様子などが獄卒の鬼たちと共に描かれる。的確な象形と鮮麗な彩色による濃密な表現は、陸信忠一流のものである。なお王の背後の衝立〈ついたて〉にはどれも水墨山水図が描かれ、日本への水墨画導入にこれら画中画が一つの役割を果たしたと考えられる。