かつて奈良・新薬師寺金堂に本尊薬師如来像の脇侍として安置されていたことのある十一面観音像。二段に頭上面を配し、左手は肘を前方に屈して華瓶を持ち、右手はゆるやかに垂下させて親指と中指を合わせる。この腕のラインや、わずかに腰を左に捻って蓮華座に立つ姿勢には、静かでゆるやかな動きが感じられる。下半身の長いプロポーション、小顔に小さめの目鼻立ちを配するところ、なで肩で、ひかえめな肉づけに終始する体躯等に、やわらかで典雅な気分が充溢する。体型の似た像は東大寺二月堂等にも見られ、平安時代後期の南都の一作風を示すととらえられよう。裳裾がM字形に切れ上がって足首が少し見えるかたちは平安時代前期の像に見うけられるもので、復古的な表現と解釈される。
光背はいわゆる板光背。すなわち頭光・身光ともに板製で、透彫は行わず、彩色で唐草文等を描く。やはり南都に多い光背形式である。
蓮華座も一部に当初の部分をのこしている。