本図は日本の羅漢図の現存最古にして最高傑作として知られる作例。金箔(きんぱく)、金泥(きんでい)といった金属色を最小限に抑え、明度の高い顔料を絹の表裏から施すことで生まれる穏やかで澄んだ色彩が特徴で、穏やかな彩色主体の造形を基本とする11世紀の仏画の代表作の一つに位置づけられている。羅漢の姿や情景描写も、中世に流行する多くの羅漢図が怪異さを誇張した姿や劇的場面を描くのに対し、穏やかで品のある描写が特徴。それらの描写に加え、画中に描かれた寺院建築や樹木、室内の調度品(ちょうどひん)の描写などから唐(とう)時代にさかのぼる原図の存在が考えられている。また、画面上部に設けられた色紙形(しきしがた)と呼ばれる区画に書かれた文字や、地に施された草花と鳥の装飾は京都・平等院鳳凰堂(びょうどういんほうおうどう)壁扉画の色紙形に近い雰囲気を示している。
明治33年(1900)に旧国宝、昭和28年に文化財保護法による国宝に指定されており、東京国立博物館へは、文化財保護法施行前の昭和25年5月と7月に、8幅ずつ2回に分けて、滋賀・聖衆来迎寺(しょうじゅらいこうじ)からの購入により収蔵されている。
(沖松)
『国宝 東京国立博物館のすべて:東京国立博物館創立一五〇年記念 特別展』毎日新聞社他, 2022, p.276, no.1.