右脇引合せの胴に、兜(かぶと)と袖を配した胴丸の代表的な名品。兜の鉢は、筋に銅鍍金(どうときん)の覆輪(ふくりん)をつけた総覆輪(そうふくりん)の四十八間(けん)の筋鉢(すじばち)で、正面に鍬形(くわがた)と日輪(にちりん)の前立(まえたて)をつける。鍬形台(くわがただい)をはじめ胴や袖の金物は、銅鍍金の魚子地桐唐草文彫(ななこじきりからくさもんぼり)で、頭(かしら)を桐の薹文(とうもん)とした鋲を打っており、吹返(ふきかえし)や杏葉(ぎょうよう)の据文(すえもん)は、桐唐草文透彫としている。
威は、紺糸に紅染めの赤糸を斜めに打ち込んだ樫鳥といわれる組糸で、樫鳥の名称については、松皮組(まつかわぐみ)とする説があり、検討の余地が残されている。吹返をはじめ胸板(むないた)などには、藻の中に獅子や蝶を型染めとした正平韋(しょうへいがわ)と称される染韋(そめがわ)を用いている。
室町時代の甲冑のなかでも、技巧を尽くした精緻な仕立で、浪岡御所の北畠家伝来といわれ、江戸時代に陸奥の三春藩主となった秋田家に伝わった胴丸である。
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