比叡山〈ひえいざん〉の東麓に鎮坐し、延暦寺〈えんりゃくじ〉の鎮守社として発展した日吉神社〈ひよしじんじゃ〉(山王社)の景観を主要素とする礼拝画。東西両本宮をはじめとする、山王二十一社の社殿を、情感的に描かれた自然景に埋没せぬ明瞭さで詳細に描写し、現実性を全面に押し出している。神仏習合思想の中で作り上げられた教説である本地垂迹説〈ほんじすいじゃくせつ〉による、超越者である仏が仮にこの世に現れた存在という神の性格を、神社の実景描写をもって表したものである。図の上部には別に区劃を設け、二十一社の祭神・本地仏・種子を並べる。各像に名称の短冊形を付すのは説明的で、尊像の存在感を損ないかねない。それは各社殿についても同様であり、宮曼荼羅としては時代の下降により、礼拝画たる重厚さの薄れる傾向は認めざるを得ない。画面と連続する絹地に描表具〈かきひょうぐ〉を施しており、当初からの掛幅の形態をよく残していることは貴重である。背面の貼紙の墨書によって、文安4年(1447)に相伝されるまでは比叡山西塔西谷にあったことが判る。