天神山古墳は、大和盆地東辺に立地する柳本〈やなぎもと〉古墳群の中の1つで、いわゆる崇神〈すじん〉天皇陵の西方に位置する全長113メートルの前方後円墳である。銅鏡は、後円部中央の竪穴式石室の中の木櫃〈ひつ〉の内外から発見されたものである。その櫃内には41キログラムの水銀朱が埋納され、これをとりまくように鏡面を上に向けて20面の鏡と、木櫃外にも3面の鏡が並べられ、さらにその内外に鉄剣、鉄刀、鉄鏃、刀子、鎌などが置かれていた。 鏡は木櫃の周縁に沿って北から右廻りに20面で一周し、櫃外の北側に2面と南側にも1面が配され、その内訳は、方格規矩鏡〈ほうかくきくきょう〉6面、内行花文鏡〈ないこうかもんきょう〉4面、画文帯神獣鏡〈がもんたいしんじゅうきょう〉4面、獣形鏡〈じゅうけいきょう〉4面、画像鏡〈がぞうきょう〉2面、三角縁変形神獣鏡〈さんかくぶちへんけいしんじゅうきょう〉2面、人物鳥獣文鏡〈じんぶつちょうじゅうもんきょう〉1面である。
天神山古墳の年代は4世紀後半ごろとされているが、これらの鏡は前期古墳によくみられる典型的な三角縁神獣鏡を含まず、後漢時代の方格規矩鏡や内行花文鏡などを主体とする特異な組合せを示している。天神山古墳は遺体を埋納した形跡がなく、すぐ東に崇神天皇陵があり、同陵の遺物のみを埋納した陪塚〈ばいちょう〉とも考えられている。